建設業許可を取得し、事業を運営する上で、建設業法における「営業所」の定義を正しく理解することは非常に重要です。本記事では、建設業法上の営業所の定義、設置義務、必要な要件、そして複数営業所を持つ場合の注意点について、わかりやすく解説します。建設業に携わる皆様が、法令を遵守し、円滑な事業運営を行うための一助となれば幸いです。

建設業法における「営業所」とは?

建設業法上の営業所の定義

建設業法における営業所とは、単に物理的な場所を指すのではなく、建設工事の請負契約に関する重要な活動が行われる拠点を意味します。具体的には、見積もりの作成、入札への参加、そして契約の締結といった、企業の営業活動の中核を担う場所が営業所として定義されます。 したがって、単なる事務処理を行うだけの場所や、資材を一時的に保管するだけのスペースは、建設業法上の営業所とは見なされません

営業所として認められるためには、建設業法が定める一定の要件を満たす必要があり、これらの要件を満たすことで、その場所が法的に営業所として認められ、建設業許可の対象となります。 建設業許可を得るためには、この営業所の定義を正確に理解し、自社の拠点が営業所としての要件を満たしているかを確認することが不可欠です。この理解を深めることで、法令遵守を徹底し、円滑な事業運営に繋げることができます。

営業所とみなされるための要件

建設業法において営業所とみなされるためには、いくつかの重要な要件を満たす必要があります。これらの要件は、建設業許可を取得し、維持するために不可欠です。まず、その場所が常に使用できる状態の独立した事務所であることが求められます。これは、建設業の営業活動が継続的に行われる場所であることを意味します。

次に、建設工事の請負契約に関する権限を持つ者が常駐している必要があります。この権限を持つ者とは、見積もり、入札、契約締結などの重要な決定を行うことができる立場の人を指します。さらに、建設業法で定められた必要な帳簿書類が、その場所に備え付けられている必要があります。これらの帳簿書類は、建設業の取引や経営状況を正確に記録し、管理するために不可欠です。 これらの要件をすべて満たすことで、その場所は建設業法上の営業所として正式に認められ、建設業許可の対象となります。これらの要件を満たしていない場合、建設業許可の取得や更新ができない可能性があります。

営業所に関する届出の必要性

建設業許可を受けている事業者は、営業所の状況に変更があった場合、速やかに所管の行政庁に届け出る義務があります。この届出義務は、建設業法によって明確に定められており、違反した場合には罰則が科せられる可能性があります。ここでいう変更とは、営業所の新設、移転、廃止などが該当します。これらの変更があった場合、一定期間内に、定められた様式で必要な情報を行政庁に提出しなければなりません。
この届出は、建設業者の情報を常に最新の状態に保ち、行政が適切に監督を行うために非常に重要です。届出を怠ると、建設業許可の更新ができなかったり、事業の継続に支障をきたす可能性もあります。そのため、営業所の変更があった場合には、速やかに専門家や行政庁に相談し、適切な手続きを行うように心がけることが重要です。 特に、建設業法や関連法規は頻繁に改正されるため、常に最新の情報を把握しておくことが大切です。

営業所に求められる要件の詳細

経営業務の管理責任者の配置

建設業法では、各営業所に経営業務の管理責任者を配置することを義務付けています。この経営業務の管理責任者は、建設業の経営に関する一定の経験と知識を持つことが求められ、建設業許可の重要な要件の一つとなっています。
具体的には、過去に建設業の経営に携わった経験や、経営に関する専門的な知識を持つことが必要です。 経営業務の管理責任者は、営業所における建設工事の請負契約の適正な実施や、従業員の適切な管理など、経営に関する重要な役割を担います。そのため、その選任は慎重に行われなければなりません。
また、経営業務の管理責任者は、常勤であることが求められます。これは、常に営業所に勤務し、経営に関する責任を果たす必要があるためです。 経営業務の管理責任者の要件を満たしていない場合、建設業許可の取得や更新ができないだけでなく、法令違反として行政処分を受ける可能性もあります。

専任技術者の配置

建設業法では、建設工事の種類に応じて、営業所に専任の技術者を配置することが義務付けられています。
専任技術者は、その建設工事に関する高度な専門知識と技術を持つことが求められ、建設工事の品質確保において重要な役割を果たします。
具体的には、建築、土木、電気、管工事など、それぞれの専門分野における資格や実務経験が必要です。 専任技術者は、工事の設計、施工計画の作成、現場での技術指導など、技術的な側面から工事を監督し、品質を管理します。そのため、常に現場の状況を把握し、適切な判断を下すことが求められます。
また、専任技術者は、常勤であることが求められます。これは、常に営業所に勤務し、技術的な責任を果たす必要があるためです。 専任技術者の要件を満たしていない場合、建設業許可の取得や更新ができないだけでなく、法令違反として行政処分を受ける可能性もあります。そのため、適切な専任技術者を配置することが非常に重要です。

帳簿書類の備え付けと保管

建設業法では、営業所において、建設工事の請負契約に関する帳簿書類を備え付け、一定期間保管することを義務付けています。これは、建設業の取引の透明性を確保し、適正な経営を促進するために不可欠な措置です。具体的には、請負契約書、見積書、請求書、領収書、工事台帳など、工事に関するあらゆる書類が保管対象となります。
これらの帳簿書類は、税務申告や行政庁の調査が入った際に提出を求められることがあります。そのため、正確かつ適切に管理しておくことが重要です。また、帳簿書類の保管期間は、建設業法や税法によって定められています。定められた期間は適切に保管し、紛失や毀損がないように注意する必要があります。 帳簿書類の備え付けと保管を怠った場合、建設業許可の更新ができなかったり、行政処分を受ける可能性もあります。そのため、日頃から適切な管理体制を構築し、法令を遵守するように心がけることが大切です。

複数営業所がある場合の注意点

許可行政庁の一本化

建設業者が複数の都道府県に営業所を構える場合、建設業許可の申請先となる許可行政庁を一本化する必要があります。これは、許可行政庁が複数に分かれることによる事務の煩雑化を避け、効率的な監督体制を構築するために設けられた制度です。原則として、本店所在地を管轄する行政庁が許可行政庁となります。
例えば、本店が東京都にあり、支店が神奈川県と埼玉県にある場合、許可行政庁は東京都知事となります。この場合、神奈川県や埼玉県に対して個別に許可申請を行う必要はありません。ただし、許可を受けた後、各都道府県に営業所を設置した旨の届出は別途必要になる場合があります。 許可行政庁の一本化は、建設業者にとって事務手続きの簡素化につながる一方で、本店所在地を慎重に決定する必要があることを意味します。なぜなら、本店所在地が許可行政庁を決定するため、今後の事業展開や行政との連携を考慮して最適な場所を選ぶ必要があるからです。

営業所間の連携

複数の営業所を持つ建設業者にとって、各営業所間の連携は円滑な事業運営に不可欠です。情報共有を密に行い、組織全体としての効率を高めることが重要となります。特に、契約状況、技術者の配置状況、工事の進捗状況など、重要な情報については、常に最新の状態を共有する必要があります。 情報共有の方法としては、定期的な会議の開催、情報共有システムの導入、グループウェアの活用などが考えられます。これらのツールを効果的に活用することで、各営業所間のコミュニケーションを円滑にし、迅速な意思決定を可能にします。 営業所間の連携を強化することは、顧客満足度の向上にもつながります。各営業所が持つノウハウや技術を結集することで、より高品質なサービスを提供することが可能になるからです。また、緊急時における対応力も向上し、顧客からの信頼を得ることにもつながります。

変更届の徹底

建設業者は、営業所の所在地、経営業務の管理責任者、専任技術者など、登録内容に変更があった場合、速やかに変更届を提出する義務があります。この変更届の提出は、建設業法によって義務付けられており、遅延や怠慢は行政処分につながる可能性があります。
変更届は、定められた様式で、必要な添付書類とともに、所管の行政庁に提出する必要があります。変更内容によっては、添付書類が異なるため、事前に確認しておくことが重要です。また、変更届の提出期限も定められているため、期限内に提出するように注意が必要です。 変更届の提出を徹底することは、法令遵守の基本であり、建設業者の信頼性を高めることにもつながります。行政庁からの指導や監査を受けた際にも、迅速かつ適切に対応することで、円滑な関係を築くことができます。

大臣許可と知事許可の違い

許可の区分について

建設業許可には、大臣許可と知事許可という2つの区分が存在します。この区分は、建設業者の営業所の所在地に基づいて決定されます。具体的には、営業所が複数の都道府県にまたがって設置されている場合は、国土交通大臣の許可が必要となり、これを大臣許可と呼びます。
一方、営業所が単一の都道府県内にのみ設置されている場合は、その都道府県知事の許可が必要となり、これを知事許可と呼びます。例えば、東京に本店があり、大阪に支店がある建設業者は、大臣許可が必要となります。
一方、本社と支店が共に東京都内にある建設業者は、東京都知事の知事許可が必要となります。 この許可区分の違いは、建設業者の事業規模や活動範囲を示すものであり、許可申請の手続きや監督体制にも影響を与えます。建設業者は、自社の営業所の所在地を正確に把握し、適切な許可区分を選択する必要があります。

許可の基準

建設業許可の基準は、大臣許可と知事許可の間で基本的に違いはありません。どちらの許可を受ける場合でも、建設業法で定められた一定の要件を満たす必要があります。これらの要件は、経営業務の管理責任者、専任技術者、財産的基礎、欠格要件などに分類されます。
経営業務の管理責任者とは、建設業の経営に関する一定の経験や知識を持つ者を指し、専任技術者とは、建設工事の種類に応じて必要な資格や実務経験を持つ技術者を指します。
財産的基礎とは、建設業を営むために必要な一定の資金や資産を指し、欠格要件とは、破産者や犯罪歴がある者など、建設業許可を受けることができない者を指します。 これらの要件をすべて満たしていることが、建設業許可を受けるための必須条件となります。大臣許可と知事許可の違いは、許可を与える行政庁の違いのみであり、許可を受けるための基準そのものには差はありません。

許可後の手続き

建設業許可を受けた後の手続きは、大臣許可と知事許可で異なります。大臣許可の場合、許可後の各種届出や申請は、国土交通大臣に対して行う必要があります。一方、知事許可の場合は、許可を受けた都道府県知事に対して行う必要があります。
例えば、営業所の所在地を変更した場合、経営業務の管理責任者や専任技術者を変更した場合、決算報告を行う場合など、様々な場面で届出や申請が必要となります。これらの手続きは、建設業法や関連法規に基づいて行われ、定められた様式や添付書類を準備する必要があります。 また、大臣許可の場合は、複数の都道府県に営業所があるため、各都道府県に対しても別途届出が必要となる場合があります。許可後の手続きを適切に行うことは、法令遵守の基本であり、建設業者の信頼性を維持するために不可欠です。

まとめ:建設業法上の営業所に関する正しい理解を

建設業法における営業所の定義、必要な要件、そして関連する義務を正確に理解することは、建設業許可を維持し、法令を遵守した事業運営を行う上で極めて重要です。

本記事が、皆様の事業運営における一助となれば幸いです。営業所に関する要件は多岐にわたり、複雑に絡み合っているため、誤った解釈や認識不足は、法令違反や行政処分につながる可能性があります。 したがって、本記事を参考に、今一度自社の営業体制を見直し、営業所が建設業法に適合しているかどうかを確認することをお勧めします。

もしご不明な点や疑問点があれば、専門家への相談も検討しましょう。弁護士、行政書士、中小企業診断士など、建設業法に精通した専門家は、皆様の疑問に的確に答えることができます。 建設業は、社会インフラの整備や経済発展に大きく貢献する重要な産業です。法令遵守を徹底し、健全な事業運営を行うことで、社会からの信頼を得ることができ、持続的な成長につながります。本記事が、皆様の事業発展の一助となることを心より願っております。